福島こどもキャンプレポート 2011年8月10日〜12日活動

           スマイル医師団「同行医務室」 加藤ユカリ
             

 今回のサマーキャンプは、福島大学災害ボランティアセンターの学生さんたちが福島のこどもたちに、「地震のことを思い出すときに、一緒に楽しいことも思い出してほしい。放射能の心配をしないでおもいっきり屋外で遊んでほしい。」という想いで、三重大学の学生さんたちと協力しあい、
JIM-NETが共催して、実現しました。

 前日にフェリーで福島のこどもたちと福島大学の学生さんたちが仙台港を出発し、名古屋港に到着。水族館をめぐったあと、伊勢志摩のユースホステルに到着。そこで私たちスマイル医師団は三重大学の学生さんたち(チームMと愛チカラ。愛知の学生さんたちも加わっていました。)とともに福島チームを出迎えました。

 暑い中、こどもたちはちょっと疲れ気味でしたが、すぐにわくわくした表情を見せてくれました。
 「大事なことだから」と団長である福島大学の地域福祉の鈴木教授は私たち4人をこどもたちに紹介してくれました。医師の私、加藤ユカリと、水上看護師、大向薬剤師、田口救命士。「何かあったら、なんでも言ってくださいね。思いっきり遊んでくださいね。」
 鈴木先生も「これだけいてくれるから、思いっきり遊んで大丈夫だからね。」

 今回の私たちのミッションは「安全無事に、とにかくおもいっきりこどもたちを遊ばせること!」・・・陰ながら、絶対に、元気に遊んでもらおう!とガッテン。

 この頼もしい?メンツと、みんなでもってきたAED、アンビューも挿管セットも輸液も外傷関係も薬もほぼ完ぺき!でもこどもたちを不安がらせないよう、ちゃんと隠して、どこへでも持ち歩いて同行しました。
 福島から同行してこられたむとう看護師さんからも、こどもたちの基礎疾患やフェリーでの様子の申し送りをいただきました。まかせてください。むとうさんにもリフレッシュしてもらいましょう。
 さっそく、私たちの部屋割りは207号室。障子くらい薄い壁を隔ててこどもたちの部屋。こどもたちの元気にはしゃぐ声が聞こえていました。入口にJIM-NETの大嶋愛ちゃんがスマイルこどもクリニックと紙にロゴもかいてくれて貼ってくれました。
 すぐ下では学生さんたちの準備したバーベキュー。
「歯が痛い。」と駆け込み患者さん。連れてきた福島の学生さんは「大丈夫だからな。俺、すぐ戻るからな。大丈夫だからな。」心配している親以上に心配し気遣っていました。
福島の学生さん自身も被災しているんだなあ。
 花火も始めて、ちょっと見回り。喘息発作の男の子発見。喘鳴聴取。207号室に連れて行き、吸入1回。元気になって部屋から一瞬で逃走!
 花火でやけどした子、腹痛の子。私たちもバーベキュー食べさせてもらったけど、何度も207号室に呼ばれました。
 三重の学生さんも指に火傷。痛いと思いながら、こどもたちを喜ばせようとずっと我慢しながらバーベキューを焼いたり、花火に火とつけたりしていたのだそう・・・。
指は痛々しいのに、とっても嬉しそうに話してくれました。

 深夜のミーティング。明るい三重の学生さんに比べてやっぱり福島の学生さんたちは深刻な表情。「地震や津波という言葉を聞いて不安がるこどもたちがいる。部屋から放射能という言葉が聞こえてきたり・・・。」「11日のプログラム中の黙とうは、せっかく地震のことを忘れさせたいのにやめてほしい。」「テレビの取材もこどもたちは疲れている。」そんな意見を、三重の学生さんたちは包容力と優しさをもって聞き、福島の人たちの意向を大切に活動をすすめていました。三重チームは福島のこどもたちにも学生さんたちにもリフレッシュしてほしいのだそう。

 「
207号室のスマイルこどもクリニック」からは「24時間体制でやっていますので、電話なしでいいからどんな深夜でも駆け込んでくださいね。207号室ですので。」
みんな礼儀正しく「ありがとうございます。」いまどきの若い人たちってすごいなあ。
 部屋に帰り、みんなで川の字で布団を並べました。
1920歳の若者たちが、10歳すぎのこどもたちを一生懸命守ろうとしている。
 私たち大人にもっと責任があるのに。

 スマイルが「こどもたちを守ろう。」と
10年前にできたとき、この学生さんたちは、その私たちが守ろうとしたこどもたちの中にいたんだなあ。だから、わたしたちは福島のこどもたちを守ると同時に、その子たちを守ろうとしている若者たちをも、その想いをも守らなきゃ。このキャンプに参加させてもらったことに感謝しないではいられませんでした。
 とにかくこどもたちの安全を最大限に守り、しかも、「思いっきり遊ばせたい」彼らの想いをも守ろう。 翌朝は、海水浴。すごい炎天下!
 一人の女の子○○ボーちゃんが虚脱。顔色不良。大量発汗。体温上昇なし。SpO2 95%。呼吸数24/分 やや浅い。脈拍数80/分 脈診にてほぼ良好に触れるもCRTやや延長。熱中症の中の熱射病の前段階、熱疲労と思われる。
 虚脱しつつも泳ぎたかったと涙目の表情。
じゃあ、元気になろう!4人のチームは徹底的にクーリングをし、生理食塩水500ML 急速に落とす。浜辺で治療開始。「点滴の終わる11時になったら泳ごうね。」
担当の学生さんのアミーゴさんに手を握ってもらう。だんだん顔色が良くなってきた。
 良好なバイタルで、深い息で入眠。ゆうべは眠れなかったそう。
 三重大のリーダーさんが、その治療の様子を見て、びっくりして、責任を感じている様子。「大丈夫、すぐに良くなりますよ。」
 こういう活動は、いろんな人たちの気持ちを大切にしなければ。
 クラゲに刺されたかも・・・の男の子、学生さんに海のほうから走って連れてこられた。でも、もう痛くない。跡も見えない。いつも葉山の海でライフセーバーのボランティアをしている田口くんが「大丈夫だよ。」じゃ、海にもどろう!その瞬間、強い風でビーチのテントが風に支柱ごと飛ばされた。偶然その場にいたその学生さんが見事一瞬でキャッチ!誰もけが人もでなかった。
 「みなさーん、11時です!もう海から上がりましょう!」
 ○○ボー、泳がせてあげられなくてごめんね。
 でも夕方からのクライマックス、スペイン村の花火は行こうね!

 いったん207号室で休んでもらった。アミーゴさんに添い寝してもらった。
 福島の学生さんが、心配して部屋へやってきた。アミーゴさんが別部屋で説明。
学生さん同志、ちゃんとやってる。
この子の観察と、次のプログラム、スマイルチームはふたてに分かれた。
次はランプシェードづくり。カッターを使うので、田口くん、そっち言って。水上さんのフォローもお願い。
 アミーゴさんは、こどもが大好き。笑顔が素敵な学生さん。「こどもたちのために、疲れた顔は見せられない。って言うか、こどもたちがいるから疲れがなくなっちゃう。もっと何かしてあげたい、もっとしてあげたいって。いつかは栄養士の資格を生かしてJICAに入って、栄養不足で亡くなっていくこどもたちを助けたい。」
明るく語ってくれたそのあと、食事もとれないほど疲れていたのでしょう、爆睡。
○○ボー、アミーゴ、かわいい二人の寝顔が並んでる。
午後4時。鈴木先生たちが見にきてくれた。○○ボーは、ちょっと少しぼーっとしているけど、スペイン村に行きたいと。もし調子悪くなったらスマイルチームがいるから、行こう!
全責任とるよ。

 スペイン村では、ひとつのレストランに本部をつくり、スマイルチーム、医療器材とともに待機。
 JIM-NETの佐藤真紀さんと福島大学の鈴木教授との出会いは?6月の福島での教授のシンポジウムに真紀さんが出て、そこで出会ったと。鈴木先生は「佐藤さんと出会わなかったら、このキャンプはなかったです。」真紀さんはいつでも本気だなあ。
JIM=NETからの寄付はもちろん、通常は個人に寄付しないJICAからも真紀さんのネットワークで資金の寄付があったとのこと。
鈴木先生は、きっちりと考えながら、でも、学生さんたちに主体的に主役をさせて、素晴らしいなあ。こういう人がいるなら、そして、こういう学生さんたちがいるなら、福島の未来は、日本の未来はきっと明るいんじゃないかと思えました。
 クライマックスのパレードと花火。とっても楽しそうなこどもたちの笑顔。
○○ボーも楽しそう。ハンバーグも食べたって。良かった。元気になってくれてありがとう。
  一番はりきっていたJIM-NETの新メンバーさんは、怪獣みたいにでっかく元気。
でも、1年半前、新型インフルエンザで急性呼吸不全になり、気切の後がある。ECMOも使ったようだ。「生かされた命だからがんばりたい。主治医の先生も僕が元気になって福島のこどもたちを助けてる、って聞いて、喜んでる。一人助けるのは一人じゃないんだなあって。」まったく同感です。
 帰り、日焼けが痛い、ってスペイン村の入口でつらそうにしている子がいる。
真っ赤だ。T度熱傷だ。入口で処置。
今夜はたくさんこんな子がいるだろうな。
帰りにドラッグストアやコンビニでクーリンググッズ大量に買い、ガーゼもタオルも大量に買い、準備。
案の定、十数人、T度熱傷。次々、痛い、と207号へ駆け込んでくる。
明日も海で遊んでほしい。夜は痛くて眠れない、ということがないようにもしたい。
だから、今夜だけはしっかりした治療をしよう。
軟膏をぬってガーゼでODT, クーリング、低体温に注意しながら、継続して冷やせるようにタオルも使って工夫して処置。
深夜11時まで処置が続いた。こどもたちも手伝ってくれた。楽しそうにやってたから、ちょっと福島の学生さんから苦情。ごめんなさい。

三重の学生リーダーさんが部屋にやってきた。
縁の下の力持ちで外回り、準備、デリケートなことまで、一生懸命がんばっている医学生だ。
やっぱり、いろいろと責任を感じて心配している。ミーティングで伝えることをたくさん聞きに来た。
「福島のこどもたちはふだん外に出ていないようで、急に焼いたから、ちょっとひどくなったと思います。しっかり治療しているので、すぐに治まりますよ。
あまりネガティブに考えないで、それだけ、いっぱい遊んだ、ってことと、ポジティブに考えてほしい。福島に帰るころには健康ないい色になって、きっと親御さんたちは、たくさん遊んだんだね、って喜んでくれると思いますよ。」
「明日は、海はやめて体育館にしたいと思っていますが・・。」
「日焼け止めを塗って上からTシャツを着れば大丈夫ですよ。でも、みなさんの判断で。」

ミーティングでは、やはり、福島の学生さんたちが「こどもたちはいつも体育館ばかりでもう嫌になっています。
外で遊ばせたい。」・・・ということになったそうです。

その夜の深夜は、207号室スマイルこどもクリニックに、こどもたちは来ませんでした。
でも、一生懸命こどもたちを心配したり、頑張っていた福島の学生さんが、顔の日焼けでドアを叩いてくれました。
 自分のことより、こどもたちを遊ばせるために、本当にがんばっていたんだなあ。

 午前2時半にドアを叩いてくれたのは、がんばっていた三重のリーダーさんでした。
背中の日焼けが、がまんできないほど痛くなってきたと。
学生さんたち、自分のことを後回しにしてこどもたちのために・・・。
処置が終わり、感動な気持ちで入眠。

翌朝は、「良くなりました。」と207号へ報告に来てくれる子も。
一人の女の子が部屋で動けなくなったと。
血圧正常、立位も下がらず。とくこさんが血糖値測りましょうか?いい考え!
でも観血場面はちょっと・・・でもブドウ糖なめさせてOS−1飲ませたら回復。

 翌朝も海へ。
とにかく熱中症対策と、日焼け対策。
氷の小袋をたくさん作って遊びから帰ってきた子の頭や首に。うちわで仰ぎ・・・。
水分補給。調子悪くなりそうな子はOS-1.
おもいっきり遊んで、今度は次々、足がいたい、とヤドカリの赤ちゃんのような虫が刺すらしい。簡単に洗浄消毒。ときどき、切創、トゲ。
今日はそれくらい。 

もうすぐお別れ。
むとう看護師さんに、申し送り。自分だけだったらお手上げでした。と4人におほめの言葉。みんな、24時間体制でがんばってくれました。愛ちゃんも。
たしかに、管理的になれば、おもいっきり遊べなかったかな、救急搬送なんてあったら、みんなどんな気持ちになったかな・・。
あったかどうかわかんないけど・・・。
でも、むとう看護師さんといると、こどもたちはほっとしそう。
使わなかった医療品は、フェリーにもっていってください。むとうさん、どうか、一人でがんばってください。使わなかったらどこかに寄付して下さい。
 福島のこどもたちと学生さん、鈴木先生たちがバスに乗り込み、みんなでお見送り・・・。
漫画の『ワンピース』みたいにみんなで背中を向けて片腕をあげて・・・。(あとから自分のこどもたちにワンピースの感動シーンの意味を教えてもらいました。勉強しなきゃ。)
 最初、ちょっとかたかった福島のこどもたちや学生さんたちの表情は、すっかり明るく緩んだ。

 こどもたちは、遊んでいるときが一番幸せに見えます。
 こどもたちが思い切り遊べる社会が一番いい社会と思います。
 今回のスマイル医療チームのミッションは、今までのイラク難民キャンプとはちょっと違ってたけど、根本は一緒。 わたしたち大人はいつも問題中心にとらえ、問題を解決するべくアプローチする。こどもたちのアプローチ・・・「つらいことばかり考えるのはやめよう。明るい方を見よう。」私は、彼らに見習い、彼らのアプローチを陰から見守り、大切にリスペクトしていきたいと心から思いました。彼らの中に真の解決法と希望があるように思いました。 大変よい機会を与えてくださってみなさまに感謝しています。

 週刊現代で「使い道の明白な寄付先リスト」にJIM=NET共催のまさにこの福島サマーキャンプが挙げられていた、と榧野ヒカリさんから聞きましたが・・・未確認です・・。参加して、私もそれは真実に思いました。

「一人のこどもを思いっきり遊ばせることは一人だけではない。」

※私は、この悲劇の大震災をきっかけに、またこの活動の中で、
  問題解決への新しいアプロ―チ法をこどもたちから学び、
  さらに今やっている医療とそれらを統合したく、フロリダの大学に今年の秋に入学しました。年5回のレジデント・トレーニング期間以外は日本にいます。
 放射能、災害・・・・さまざまな不安がこどもたちを取り巻いていますが、
 不安のない、みんなが幸せを感じるような、そんな未来をつくっていきたいと思っています。
 犠牲になってしまったこどもたちの死や家族や友達の悲しみを無駄にしないよう、
またこれ以上犠牲になるこどもたちのでない社会をさまざまな人たちと力をあわせて一緒に築き上げたいと思います。
1回目のレジデントクラスが終了し、大きな感銘を受けました。
学ぶことがすべて自分にとって新しく世界中から集まったたくさんの友達も素晴らしく、
大きな希望を感じました。
The right timeがきたら必ずレポートします。スマイルはずっとずっと消さないで、
灯りをともし続けています。